津原泰水「蘆屋家の崩壊」

蘆屋家の崩壊 (集英社文庫)

蘆屋家の崩壊 (集英社文庫)

ハードカバーで出版されたときに借りて読んで、とても気に入った本。収納スペースや経済的な理由から、文庫化されたら買おう、と思っていたものを、先月ふらりと立ち寄った本屋で、平積みされているのを発見。待っていたよ〜と思って手にとって見たら、もう三年近く前に文庫化されていたらしい。気づかなかった自分に軽くショック。
それにしても、ハードカバーの装丁はすばらしかったなあ。わかっていたことだけれど。

幻想怪奇小説8篇収録されている短編集。文庫化にあたり「超鼠記」が新たに収録されている。
猿渡という「三十を越えて未だ定職にも就けずにいるぐうたら(本文より)」が主人公。相棒に伯爵という仇名の怪奇小説家が登場し、二人が遭遇する怪奇な世界が描かれている。起こる事件は妖しく恐ろしいものだが、それを表現する文章は、シンプルでわかりやすい。なのに美しい。いやだから美しいのか。再読でも、最初の猿渡と伯爵の出会いのエピソード「反曲隧道」からもう惹き込まれてしまう。もっと言うと、本文三行目中程から、ずらずらっと五行半にわたって句点なしに展開される自嘲気味な猿渡の自己紹介(?)で、もう「ああ、これこれ」と思ってしまった。文章のリズムがいいのだと思う。あと、幻想怪奇小説なのに、本編とは関係なくどこまでも繰り広げられる豆腐談義。猿渡と伯爵の、豆腐への深すぎる愛情がおかしい。読みやすくて、強くお勧めな一冊。

久しぶりに読み直してみたが、やっぱり良い。
↓この先ネタばれになる可能性があるので、未読の方はご注意を↓
前編通して、怪奇物らしい、余韻を残す、スパッとした終わり方。恐怖が後の文章に消されずに一篇一篇が終了。「ケルベロス」はちょっと違うかな。恐怖で終わるというより、救いを残して終わる感じ。これはこれで、また新たな怪奇でもあるけれど。
一番ゾクッとしたのは「埋葬虫」。もう虫ってだけで苦手。最初は美しい昆虫として登場したこの虫が、美貌の青年、齋条のなかにびっしりと・・・って想像したらもうだめ。不気味すぎる。
サイドストーリーで好きなところは、猿渡と伯爵が、無類の豆腐好きを発揮しているシーン。評判の豆腐があると聞いては、日本列島縦断しかねないノリが好き。表題作「蘆屋家の崩壊」のなかの、たまたま入った食堂で食べた手作り豆腐に、涙を流して感激する場面では思わず笑ってしまったよ。最高!

反省

美しい日本語の小説なのに、それを紹介しようとする、自分のまわりくどい文章に嫌悪感を覚えた。