カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」

最近読んだ小説の紹介。うわ、「書籍」ってカテゴリー、久しぶりに使ったよ。もっと本を読もう。
カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」を読みました。
著者は日本人ですが、五歳のときにイギリスにわたり、向こうで小説家として活躍しているので、これは原作の日本語訳です。
「提供者」たちの子ども時代。青春。そして「提供」を始めた今。
扱っているモチーフは重いですが、現実を良く知らされずに育った子ども時代がメインなので、そんなに重くなく読み進められます。
そのモチーフより何より、構成がすごい。
大人になった主人公の回想という形で物語が進むのですが、途中で別のことを思い出して話が逸れたり、元に戻ったりする中で、徐々に読者に情報を出していく。
これは凄いとしか言い様無いです。緻密にプロットを組んだのでしょう。
残念なのは最後。
ずっと主人公の回想で綴られていく理由が解明されないのがすっきりしません。一体「介護人」である主人公は、誰に向かって思い出話をしていたのか?
それが明かされるのかと思ったのですが。そして、その思い出話をしている、という状況が、またひとつの物語の山になっているんじゃないかと思って読んでいたのです。
この思い出話が終わったときに、なにが明かされるんだろうと。
でも何もなかった。
いや、何も無いことこそが、この物語らしいのかな。
でもせめて、なんで思い出話をしているのかを教えてくれても良かったと思います。


「わたしを離さないで」
著者:カズオ・イシグロ
訳者:土屋政雄
出版社:早川書房
発行日:2008/8/25